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なぜラムズはゴフをトレードしたのか。シーズンを振り返りながら考える Week0 前半

week0_1ラムズ

良いクォーターバックがいても試合に勝つ保証はないが、良いクォーターバックがいなければ試合に勝つチャンスすらない。

アメフトは各ポジションの役割が明確なチームスポーツでありそれぞれが重要な役割を担っているため、クォーターバックだけが良くても試合に勝つことはできないが、攻撃の起点となるクォーターバックが良いプレーをしなければ勝つチャンスすらないという意味です。
これは有名なヘッドコーチの言葉でもなんでもなく、この連載を書くにあたってさっき考えた言葉ですが、きっと誰かが同じようなことを言っていると思います。それくらいクォーターバックはアメフトというスポーツにとって重要なポジションなのです。

そのチームにとって最も重要なQB1をなぜトレードに出したのか。2年前にはチームをスーパーボウルに導いたQB1を。
その理由を2021年シーズンを1試合1試合振り返りながら自分なりに考えていくというのがこの連載の狙いです。というのも試合結果だけ見れば2017年11勝、18年13勝、19年9勝、20年9勝(チームとしては10勝)とフランチャイズQBになってからの4年で42勝27敗、全てのシーズンで勝ち越し、3度のプレーオフ進出、そのうち1度は史上最年少のQB、HCでのロンバルディトロフィ獲得まであと1勝というところまで迫っており、勝敗で言えばこれほどの結果を残している他のチームのQBはそうはいません。それに加え怪我にも強く、負傷での欠場は2020年シーズンの最終戦のみ。同期で全体2位指名のQBカーソン・ウェンツとは対照的に健康を維持して戦い抜く強さがあります。
とはいえラムズファンとして試合を見ていたら納得してしまうのがこのトレード。ショーン・マクベイHCやレス・スニードGMがどのように考えてトレードまで至ったのかなど、試合を振り返りながら、スタッツとにらめっこしながら、ゴフのプレーに感じていた印象を言語化していきたいと思います。最初に終わりが見えているのでタランティーノの映画みたいになっちゃいますが…いやそんなに高尚なものではないですね。各回ではゴフのスタッツに加え、試合全体の流れや感想なんかも入れていく予定です。

今回はWeek0としてこのトレードの概要とゴフの入団から2019年シーズンまでを時系列で振り返っていきます。ゴフがドラフトされた2016年から19年のまとめ的なものになるためかなり長くなってしまいまったので、このWeek0は前後半に分けて書きました。長いですが読んでいただけたら嬉しいです。

元全体1位指名同士のブロック・バスター・トレード

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2021年1月30日、ラムズは2016年のドラフト全体1位で指名したQBジャレッド・ゴフと決別し、代わりにライオンズからこちらも元全体1位指名のQBマシュー・スタッフォードをトレードで獲得しました。このブロック・バスター・トレードは元全体1位指名同士のトレードということでも話題になりましたが、ラムズからはゴフに加えて2021年ドラフトの3巡目指名権と2022、23年の1巡目指名権を譲渡するという大盤振る舞いをしたことで賛否両論巻き起こりました。

このトレードのラムズ側の原因の大きな一つは2019年に結んだゴフの4年1億3,400万ドル(約144億9,000万円)という超大型契約。これは新人契約後の21年から4年間の契約で、最低でも1億1000万ドル(約117億円)は保証されるというもの。ゴフがどれだけ活躍しなかったとしても、24年まで年平均で28億程度のキャップヒット(21年は10億程度、22〜24年は毎年34億円程度)が発生することになります。それでもラムズは21年に2,470万ドル(約26.5億円)のデッドマネーが発生してしまいますが、それを差し引いてもこの契約から逃れる道を選びました。

もう一つの原因はもちろんゴフのパフォーマンス。そもそもゴフが期待通りのパフォーマンスを見せていればこのトレードをする必要はなかったわけですからね。ただ一概にゴフ一人のせいというわけではなく、周りの要因も大きいのも事実だと考えています。それを踏まえてゴフとラムズがどういった道のりを歩んできたのか、まずは2016年の入団から振り返っていきたいと思います。

2016年 ドラフト全体1位指名と前途多難な幕開け

2015年シーズンを7勝で終え9年連続の負け越しを喫したラムズは本拠地をロサンゼルスに戻したのを機にドラフトで大きな賭けに出ます。2016年の1巡目全体15位、2巡目全体45位、3巡目全体76位、2017年の1巡目全体5位、3巡目全体100位の計5つの指名権を譲渡する代わりに2016年の全体1位指名権と4巡目全体113位、6巡目全体177位を獲得。全体1位でジャレッド・ゴフを指名しました。このトレードアップは現在もGMを務めるレス・スニードが先導したものだということは重要なポイントです。

2016年シーズンが始まるとゴフは控えとして試合を観察することになり、そのままベンチから腰を上げることなく9試合が経過します。その間QBケイス・キーナムが先発を務めるも4勝5敗と厳しい戦いが続き、10戦目にしていよいよゴフが先発で出場します。しかし思うようにいかず勝ち星は付かず。4勝9敗となった時点でヘッドコーチのジェフ・フィッシャーが解雇されるも悪い流れは止まらず、結局残りの3試合を含めゴフが先発した7試合すべてで敗北。ゴフは早くも「失敗作」の烙印を押されかけていました。

この年についてはAmazon Primeのドキュメンタリー番組「All or Nothing(オール・オア・ナッシング」の2ndシーズンでラムズが取り上げられているので、チームの内情を詳細に知りたい方は是非チェックしてみてください。フィッシャーが自身の解雇を伝える衝撃的なシーンなども収められており、見応え十分な作品となっています。ラムズファンからするとどん底の時代なので全体的に見るのが辛いですが…

2017年 マクベイ新HCによるゴフ改造計画

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10年連続負け越しという暗黒期の中にいたラムズに救世主が現れます。当時ワシントン・レッドスキンズでオフェンスコーディネーターを務めていたショーン・マクベイがNFL史上最年少となる30歳でラムズのヘッドコーチに就任しました。
最年少という若さやOCとしてレッドスキンズで結果を残した実績、そして何より控えQBだったカーク・カズンズをエースQBまで急成長させた手腕でゴフも同じように成長させてほしいという、大きな期待を背負って迎えた2017年シーズン。終わってみれば11勝5敗で地区優勝、総得点478(1試合平均29.9)でリーグ1位と、たった1年で結果を残しました。
そして懸念だったゴフも15試合で11勝、3,804ヤードを投げてレーティング100.5、タッチダウン28、インターセプト7という成績を残してプロボウルに選出されるほどの活躍を見せました。この成功の大きな要因はプレーアクションパスをうまく活用したことです。ゴフはもともと高い精度を誇るロングパスが武器でしたが、2016年はチームがチグハグだったこともありその武器が活かせず。そこで当時燻っていたRBトッド・ガーリーのレシーブ回数を増やし柔軟な起用をすることで才能が開花。ガーリーの存在感が増すことで前のめりになったディフェンスの頭上にミドルレンジパスを通し、ここぞという時にロングパスを放ることでそれぞれの歯車がうまくフィットして爆発的な攻撃力を生み出しました(18年はブランディン・クックス、ロバート・ウッズ、クーパー・カップ、ジョシュ・レイノルズとWR陣にタレントが揃っていましたしね)。ゴフのパス1投当たりの獲得ヤードが16年の5.3(7試合以上出場したQB33人のうち最下位)から8.0(リーグ3位)へと急成長したのがその成功を物語っています。
こうしたマクベイHCのオフェンスマインドによるゴフの成功からその後3年間で二人の信頼関係が築かれ、そして崩れていくことになるとは知る由もないのです…

ショーン・マクベイHCに関する詳細な経歴や学生時代、性格、レッドスキンズとラムズに来てからの成績などにはこちらでまとめています。

2018年 スーパーボウル進出と綻び

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2018年はゴフのキャリア(少なくとも2021年現在)で最高の年になり、また急転直下の始まりとなった年でした。
この年は開幕から8連勝を記録。Week9でセインツに土をつけられるも最終的に13勝3敗でレギュラーシーズンを終えプレーオフも順調に勝ち上がり、スーパーボウルへとコマを進めます。しかしこのスーパーボウルが史上最低得点を記録するロースコアゲーム(13対3で合計16点)。3QにラムズのPジョニー・ヘッカーによって蹴られた65ヤードのパントはスーパーボウル史上最長記録となるなど、影のMVPは両チームのパンターなんじゃないかというほどパントシチュエーションの多い試合となりました。
ラムズはKグレッグ・ズアーレインのキック3点しか取れず敗北。この年合計得点でチーフスに次ぐリーグ2位の527点(1試合平均32.9点)を稼いだオフェンスとは思えない醜態にファンのみならず全ての観客を落胆させました。
なぜこれほどまでにエンドゾーンが遠かったのか。この試合ペイトリオッツのビル・ベリチックHCはゴフに執拗なまでのプレッシャーをかけました。ドロップバック(QBがパスを投げるために後ろに下がること)に対してゴフがプレッシャーを掛けられた比率は38.1%となっており、シーズン平均の21.7%に比べるとその高さは群を抜いています。想定していたパスターゲットが空いていない場合やブリッツでプレッシャーがかかった時のアドリブ力が弱く、ゾーンディフェンスを読むのが苦手というゴフの弱点が露呈するなど、2017、18年前半で大きな武器となったプレーアクションパスにほころびが生じてしまったのがこの年でした。
ただスーパーボウルでの惨劇はゴフのせいだけではありません。プレーアクションで一翼を担ったガーリーが大学時代からの膝の怪我の悪化でシーズン終盤からプレイを制限され、スーパーボウルでもC・J・アンダーソンとプレイを分担したことでランプレイの爆発力がなくなってしまっていました。プレーアクションの前提はランニングバックが脅威であることという点が、今後ゴフを、ラムズを苦しめる要因となっていきます。
この年のゴフの個人スタッツはパス4688ヤード(3位)、32TD、レーティング101.1とキャリアハイを更新しました。ただインターセプトが前年の7から12に増えたのがマイナスポイント。パスあたりの獲得ヤードが8から8.4に上がっているので大胆なプレーを選択する自信がついてきたとも考えられますが。

※プレーアクションとオプションをごっちゃにしてしまってたので一部修正しました…ご指摘ありがとうございます!

最後にこの年に欠かせないのがweek11の対チーフス戦。NFL史上初めて両チームが50得点以上獲得した試合であり、1試合の合計得点がNFL歴代3位(105点)、両チーム合計タッチダウン数歴代2位(14回)など記録ずくめの試合となり、手に汗握るシーソーゲームは歴史に残る大熱戦となりました。攻守両面で素晴らしいプレーが続出し、最後までどちらが勝つかわからないとても見応えのある試合です。まだ見ていない方はNFLの公式YouTubeチャンネルでも視聴することができるのでぜひご覧ください。

2018年までの3年間を振り返ってきましたが、後半となる2019年とまとめに関してはこちらをご覧ください。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

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