前回に引き続き「ゴフがトレードされた理由を考える」の連載に先立って、2019年までの振り返りの後半を書いていきます。今回は2019年の振り返りと2017年〜19年のゴフのパスエリアごとのパサーレイティングのイメージ、2020年振り返りに向けて戦力の簡単な振り返りとまとめです。前半を見ていない方はこちらもチェックしてみてください。
2019年 超大型契約と低迷
スーパーボウルが終わり、ラムズのQB1ジャレッド・ゴフの評価について意見が分かれ始めていたところで、ラムズはゴフと4年1億3,400万ドル(約144億9,000万円)、保証額は当時NFL史上最高額となる1億1000万ドル(約117億円)という超大型契約を結びます。止まらないQBの契約インフレの流れは避けられないものですが、それがスーパーボウルでの惨敗の後ということでこの契約を危惧する声が強かったように思います。そしてこの懸念はすぐに現実のものになります…
Embed from Getty Imagesタレントも豊富で2年連続のスーパーボウル出場に期待が掛かったシーズンですが、結果的に9勝7敗でプレーオフ進出を逃してしまいます。この結果に関してはweek0前半の記事でも触れたようにゴフが得意としたプレーアクションパスの一翼を担ったガーリーの膝の負傷による失速が関係しています。キャリー223回でラッシング857ヤード(平均3.8ヤード)、ラッシング・レシーブ両方の合計1,064ヤードなど多くの指標においてプロ入り5年間でキャリアロー。ランのキャリーは制限されていたのでラッシングヤードが少ないのは仕方ないのですが、1回あたりのラッシングヤードが前年比で1ヤード以上低下していること、そしてラン中にタックルなどコンタクトがあった後にどれだけ前に進んだかという指標では前年平均2.4ヤードから1.7ヤードに低下したのを見ると、やはり膝の負傷によってセカンドエフォート(タックルされたあと、あと一歩前に出ること)の踏ん張りがきかなくなってしまったと言えるでしょう。ところどころアグレッシブなプレーを見せてくれることはあったのですが、特にサイドラインを走っている時に「あと1、2歩行けるだろう」というところで無理をせずフィールド外に逃げるシーンが印象に残っています。全体的に2018年までの躍動感を走りに感じることができず、どこか力をセーブしている印象を受けました。ランが脅威でなくなると相手ディフェンスは後衛に力を注げるのでパスが通りづらくなります。こうしてガーリーというリーグでも脅威的なランニングバックを失ってしまったことでラン・パスのバランスが崩れた結果、プレーアクションが前年よりも機能しなくなったことが低迷の要因の一つでした。18年のファーストダウン獲得の比率はランが33.4%(ラン134回、パス236回)でしたが、19年はランの比率が26.9%(ラン92回、パス222回)と低下し、パスに傾倒してしまっています。
しかしこれはあくまで2019年の低迷の要因の一つ。やはり大きいのはゴフ自身のパフォーマンスの低下だったと思います。
まず確認しておかなければいけないのは2019年のラムズのオフェンスライン。シーズン中に38歳を迎えるベテランLTアンドリュー・ウィットワース、15年2巡目のRTロブ・ヘブンスタイン、Gオースティン・ブライスの3人は前年先発出場をしていましたが、RTジョセフ・ノートボーンとCブライアン・アレンは先発経験なし。そしてシーズンが始まると第6週にノートボーンが負傷。15年以降先発を守り続けてきたヘブンスタインも9試合目の膝の怪我で欠場、続けて10週にはアレンとブライスの2人も負傷で欠場。結局この4人はシーズンが終わるまで帰って来ることはありませんでした。最終的に全試合出場したのはウィットワースのみという状態だったのでOLは崩壊状態かと思いきやそんなことはなく、ブラウンズからトレードで補強したGオースティン・コルベットや新人のGデビッド・エドワーズらがうまく穴を埋めることで、オフェンスライン全体の評価はシーズン前半よりもむしろ後半の方が高いものになりました。その結果ゴフの被サック数は前年33回から22回(リーグ最小)、プレッシャーがかかった比率も21.7%から18.5%(8試合以上出場した選手で29位)に減少しました。
以上を踏まえたうえでゴフに話を戻します。パスヤードこそ4,638と前年(4,489)を上回りましたが、TDは22(前年32)、TD率3.5(同5.7)、インターセプト16(同12)、INT率2.5(同2.1)そしてレーティングも86.5(同101.1)と成績を落としました。INT率も前年の2.1から2.5と上がっており、またパス1投当たりの獲得ヤードに関しても前年8.4から7.4に下がっており、前年と比べて頼もしくなったOLの後ろに控えているQBという状況を鑑みるとやはりゴフ自身のパフォーマンスが下がっている、つまり相手チームのゴフ対策に対応できていないということになります。
またパスを投じた位置ごとのスタッツを見てみると、2019年は前年に比べて敵陣に入った直後の49ヤードから20ヤードまでの数値が大きく低下しています。(グレーの行が2019年)
シーズン | 位置 | パス成功率 | タッチダウン | インターセプト | パス平均獲得ヤード |
---|---|---|---|---|---|
2018 | 自陣21-50 | 63.82% | 2回 | 4回 | 9.8ヤード |
2019 | 自陣21-50 | 65.98% | 1回 | 5回 | 9.0ヤード |
2018 | 敵陣49-20 | 69.89% | 7回 | 4回 | 9.0ヤード |
2019 | 敵陣49-20 | 58.45% | 3回 | 10回 | 6.2ヤード |
自陣21から50ヤードでのパス成功率は微増しているのに対して平均獲得ヤードは下がっているため、19年は比較的短いパスでフィールドを進んでいたことになります。一方で敵陣に入ってから20ヤードまではパス成功率の下落が10%以上、タッチダウンは半分以下、インターセプトは倍以上、平均獲得ヤードは約3ヤード悪化しています。この距離からのタッチダウン数、平均獲得ヤードの激減を見ると、やはり18年まで持ち味でもあったロングパスが通しにくくなったと言えるでしょう。
エリアごとのパサーレイティング
これは2017年〜19年のパスを投げたエリアごとのパサーレイティングです。緑のエリアがリーグの平均以上、黄色が大体平均程度。赤が平均以下です。こうしてイメージで見てみると、ゴフがいかに2019年に苦戦したかがわかりますね。
2019年は全体的に低下しているのですが、特筆すべきなのはやはり深い位置に投げた時のレイティングの低下です。ゴフの持ち味であるディープパスが封じられてしまったことが一目瞭然ですね。
2020年シーズンを振り返る前に戦力を再確認
ここまで2017〜19年のゴフとラムズの変遷を振り返ってきましたが、最後に次回からの2020年シーズンの振り返りに先立ってロースターを整理します。
オフェンス
攻撃面ではまず膝の負傷を抱えて思うような結果が残せなかったトッド・ガーリーを2年の契約を残してクビにしました。2019年シーズンが終わってから不穏な空気が流れていましたが、ガーリーファンとしてはとても悲しい結果に。。ガーリーは2018年に4年最大6,000万ドル(約66億7,000万円)、保証額4,500万ドル(約50億円)という当時RB史上最高保証額を結びました。そのためラムズはガーリーをカットすることで2,015万ドル(約22憶円)のデッドマネーを抱えましたが(のちにファルコンズと契約したためロースターボーナスの一部は相殺されたので実質20億円ほどになった)、3月19日の16時までに放出したことで11億を節約できたことになります(20億円は失うのに11億を節約というのは感覚的に理解しづらいですが、払う予定だったお金を払わずに済んだという感覚ですかね。NFLの契約はややこしい…)。
絶対的なエースがいなくなったRBルームは2年目のダレル・ヘンダーソン、ショートヤードが得意なマルコム・ブラウン、そして20年ドラフトでラムズが最初にピックしたキャム・エイカーズの3人体制で回すことに。いままではガーリーというSクラスのプレイヤーが大半のスナップでセットしていましたが、20年はこのBからB-(あるいはC)ほどの3人を使うことでガーリーが1人で行ってきたプレーを再現しようとしました。
レシーバールームでは42回のキャッチで583ヤード、タッチダウン2回というキャリアローの記録に終わったブランディン・クックスをテキサンズにトレード。いずれも1,100ヤード以上レシーブしているロバート・ウッズ、クーパー・カップの2人が契約更改を迎えるのでキャップスペースを確保したかたちになります。この2人に加え、控えのジョシュ・レイノルズ、そしてドラフト2巡目のヴァン・ジェファーソンという布陣。タイトエンドは変わらずタイラー・ヒグビーとジェラルド・エバレットの2TEで臨む。OLは前年後半から変動なし。
ディフェンス
ディフェンスラインはDEダンテ・ファウラーJrがファルコンズに移籍しましたが、レイブンズに移籍合意間近だったDEマイケル・ブロッカーズが残留してDTアーロン・ドナルドとのタッグを継続。ドナルドの横にはライオンズから2年契約でDTアショーン・ロビンソンを獲得しました。
ラインバッカーは前年加入したクレイ・マシューズが期待外れの結果に終わったのでカット。2018年にプロボウルに選出されたコリー・リトルトンもレイダーズに移籍。そのためベアーズからレナード・フロイドを獲得して、
セカンダリーは19年半ばにトレードで獲得したCBジャレン・ラムジーを中心に、CBトロイ・ヒル、Sテイラー・ラップ、Sジョン・ジョンソンと顔ぶれは変わらないがディフェンスの強みとなるユニットを維持。
スペシャルチーム
スペシャルチームはプロボウルに4度出場でNFLのパンターとして最高額の契約を持つジョニー・ヘッカーは残留するも、8年間スペシャルチームコーディネーターとして勤めたジョン・ファッセルがカウボーイズの同職に就いたことで同じく8年間キッカーを務めたグレッグ・ズアーレインが後を追って移籍。代わりに7巡目指名のサム・スローマンで開幕を迎えます。リターナーは2年目のエンシンバ・ウェブスターです。
まとめ
最後にまとめです。次回から2020年シーズンを振り返っていくわけですが、かなり長くなってしまったのでこれだけでも覚えていってもらえれば次回以降より楽しんでいただけるんじゃないかと思います。
- 2016年、ラムズは現在もGMを務めるレス・スニードが先導してゴフを全体1位指名したが初年度の成績は7戦7敗で散々な結果になった。
- 2017年、新HCショーン・マクベイ体制の元、ゴフとラムズはプレイアクションパスで躍進。プレーオフに進出する。
- 2018年、前年の勢いそのままにスーパーボウルに出場するが、プレッシャーがかかった時の判断力やゾーンディフェンスを読むのが苦手なことが露呈してしまう。
- 2019年、プレイアクションパスの要であるRBトッド・ガーリーが怪我の影響で不調。プレイアクションパスがうまく機能しなくなった結果、ゴフは大きく成績を落としてしまった。
こうして栄光と挫折を味わったゴフは真価を問われる2020年シーズンを迎えます。次回はWeek1ダラス・カウボーイズ戦を振り返ります。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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